子どもたちの光を発見するために
当塾では、教科学習面以外の取り組みの一つとして、毎年ゴールデンウィークの時期に課題作文を課しています。先日、その優秀作品の選考を行いました。
今年の課題は、小学部の「野生の白鳥に餌をやる行為にあなたは賛成するか」と、中学部の「あなたなら、西郷隆盛と大久保利通どちらのリーダーについていきたいか」という課題でした。最初に事前に当塾講師が創作した、会話を基調とする課題文を子どもたちに読んでもらい、続けて、それを踏まえて自分自身の意見を600字~800字程度で書いてくるという形式で行いました。
いずれのテーマでも「これが正解」というものは存在しません。そして、それこそがこういった課題を子どもたちに課している大きな背景となっているのです。
子どもたちが社会に出た後には、答が複数ある問題や課題に数多く直面することになると思います。どんな事象であっても、見方を変えれば変える分だけ新たな答が見つかるはずです。大人になる前に少しでも正解が一つではない課題があるということを実感しておくことはプラスになるはずだと私は考えています。
子どもたちに伝えたかったことが二つあります。一つめが「私は~だと思う。その理由は○つある。一つ目が…」という表現ができるようになって欲しいということ。二つ目が「見方を変えると正解も変わってくることがある」ということです。
「課題となっている情報を正しく読み取ること」「自分なりに頭で整理して『自分の主張』を創ること」「『自分の主張』の理由や根拠を明確にして説得力のある文を書くこと」は、世の中で生き抜いていくための貴重な力の一つとなると思います。そして、テーマ作文を書いてもらうこと自体が、それらの実践となると考えました。また、他人の視点を数多く知ってもらうために、全ての講師にも同じテーマで作文を書いてもらい、子どもたちの提出後に公開しました。「先生によって答が全然違う…」=「人によって色々な見方がある」=「正解は一つじゃない」ということを、子どもたちに十分に実感してもらうための仕掛けとしていたわけです。
今年も多くの子どもたちが一生懸命に作文を書いてきてくれました。ここで、小学部塾生の優秀作品三つの要旨をご紹介したいと思います。結論はまちまちですが、いずれも鋭い視点で書かれています。
まず一つ目。「私は餌をやる行為には賛成できない。自分自身、自宅の近くの空き地を遊び場にしていたが、最近、そこに家が次々と建てられてしまい遊べなくなった。遊び場がなくなって、野生動物の気持ちが何となく分かったような気がする。餌をやることがいけないとは言わないが、野生動物が自力で生きていける環境を創ることの方が大切なのではないか。」
続けて二つ目です。「私は餌をやる行為に賛成だ。人間も野生動物も同じ地球に住んでいる生き物同士だ。人間が次々と建物や道路を増やしていった結果、野生動物の住む場所が減っているという事実がある。人間が自然に手を出さない、関わりを持たないというのはよくない。人間が野生動物にできる限りのことをして関わり続け、共に生きていくことが大切だと思う。」
三つ目の作品では「近所の池でカモや鯉にパンを与えているおじさんがいる。しかし、その量が多すぎて動物たちだけでは食べきれず、残り物によって池が汚れてしまっている。これはゴミのポイ捨てに近いのではないか。また、このような身勝手な行為が行われているから特定の野生動物だけが増え、結果として生態系を一層破壊することにつながっていると思う。」が要旨となっていました。
いずれの視点や表現にも、心の底から感動しました。野生動物との共感、グローバルな視点、身近な事例からの問題提起など。本当に素晴らしいと思います。そして、ここに掲載したもの以外にも興味深い視点や表現が色々な子どもたちの作文の随所に見られました。多くの子どもたちの作文を読みながら、私自身も何度も「なるほど…」と唸らされました。
我々は進学塾です。したがって普段の授業では、「何が正しい答か」というものを必死で追求し、同時にその覚え方やその答に如何に早く辿りつけるのかの訓練を行っています。しかし、それだけでなく、「正しい答」が一つとは限らない課題にもチャレンジさせて、前述の通り、自分の主張を表現する訓練、視野を広げていくきっかけとしたいと思っていました。そして、多くの力作を目にした今、「子どもたちが放つ光をもっともっと見つけていきたい。そして我々が関わることでその光を一層輝かせていきたい」こんな想いを改めて胸に抱いています。
今、塾業界は大変な競争にさらされています。そこでモノを言うのは「成績の向上」と「合格実績」であるということも分かっています。しかし、それだけでなく、こういった点数では測りきれない能力を育んでいくことで、真の人間力の向上に努めていきたいと心から思っています。私たちはこれからも子どもたちの一層の成長に寄与できるように全力で頑張り続けます。